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ブログ・お知らせ

本質に目を向けること

2019年4月19日

SNSでもTVニュースでも、最近やたらと目にするのは他人の言動への「揚げ足取り」発言。
政治家の発言問題など最たる例で、その「揚げ足取り」をメディアが率先するのは質が悪いとしか言いようがありません。
もちろん中には「しょーもない」「かばいようのない」ものもあります、それはどうぞ批判を浴びてもらいましょう。
ただ言動の本質から目を背け(背けさせ)て一部のみフォーカスして批判することが目立ち、内容によっては嫌悪感しかないものも。
何をどう論じようが「言論の自由」と言われてしまいそうですが、メディアや身分・立場の力を使った情報の流布は時に暴力になります。
そして聴き手である我々も、情報を判断し、本質に目を向けて考える意識が必要です。

数日前のことですが、某メディアで「ジェンダー研究者の発言」について採り上げられた記事を目にしました。
今月行われた東京大学の入学式で、新入生3,000人以上を前にスピーチ(祝辞)をした一人の女性に関する記事です。
その方はジェンダー研究(女性学)の第一人者で、同大学名誉教授の上野千鶴子さん。
なぜ注目を集めたのか。
ジェンダー研究者として女性の性差別の実態について、昨年に東京医科大学が女子受験者を差別していた入試不正問題に触れ、また東大入学者の女性比率が「2割の壁」を超えないことも採り上げ、「社会に出れば、もっとあからさまな性差別が横行しています。東京大学もまた、残念ながらその例のひとつです。」などと指摘し、スピーチの前半は女性に関する内容です。
この部分だけを切り取ったら違和感を覚えたかもしれませんが、上野さんはこう訴えたのです。

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あなたたちはがんばれば報われると思ってここまで来たはずです。ですが、頑張ってもそれが公正に報われない社会があなたたちを待っています。頑張ったら報われるとあなたがたが思えることそのものが、あなたがたの努力の成果ではなく、環境のおかげだったこと忘れないようにしてください。

世の中には、頑張っても報われないひと、頑張ろうにも頑張れないひと、頑張りすぎて心と体を壊した人たちがいます。頑張る前から、『しょせんお前なんか』『どうせ私なんて』と頑張る意欲をくじかれる人たちもいます。あなたたちの頑張りを、どうぞ自分が勝ち抜くためだけに使わないでください。恵まれた環境と恵まれた能力とを、恵まれない人々を貶めるためにではなく、そういう人々を助けるために使ってください。
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自分が新入学生としてその場にいたら、どのような思いで聞いたでしょうか。
今だから感じることがありますが、18歳の自分にはピンとこなかったのかも知れません。
または、今よりも多感に受け止めたのかも知れません。
ここまで正面切って、しかも大学入学式の祝辞で“叱咤”するようなスピーチは珍しいのではないでしょうか。
大切なことを、大勢の前で堂々と。
当日の会場がどのような雰囲気だったのか気になります。
このスピーチの価値は、もちろん内容もそうですが、大学入学式という公の場でなされたという事実です。
そして、その価値はスピーチをした上野さんではなく聴衆(そして事後に情報として触れる我々)の感性に委ねられています。
このスピーチ内容には様々な声(賛否の声)があります。
もちろん発言した本人の意図は分かりませんが、少なくとも我々が感じとるべき本質は「部分的な」「小さな」ものではないと思います。

我々は普段から多くの情報に囲まれ、責任ある立場となれば選択や判断を迫られることも少なくありません。
決して会社の役職だけではなく、家庭では親として、何かを主催すれば幹事としても。
選択や判断をするためには情報が必要であり、自分から目や耳にするもの、また多くの人が何かしらの意図をもって提供してくれます。
情報の受け止め方も、その情報を基に判断する内容も、もちろん他人が強制・強要できるものではありません。
日本は、この手の自由には寛容です。
ただ自分が判断し発言することは、今度は別の人に影響を与えることだけは意識しておきたいものです。

上野さんのスピーチはURL添付のカタチで全文を紹介しますので、是非ともすべてを確認して下さい。⇒ https://www.youtube.com/watch?v=SvGCDL78McE
と言いながら最後に、彼女がスピーチの締めくくりで話をした内容を紹介します。

学生向けではありますが、我々だって今からでも遅くはない!と思わせてくれるメッセージです。

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大学で学ぶ価値とは、すでにある知を身につけることではなく、これまで誰も見たことのない知を生み出すための知を身に付けることだと、わたしは確信しています。知を生み出す知を、メタ知識といいます。そのメタ知識を学生に身につけてもらうことこそが、大学の使命です。ようこそ、東京大学へ!

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